

2006年に太秦という会社を立ち上げた、それは、何らかの映画を配給してビジネスとして成立させようとしただけではなかった。2003年に歌い手のあがた森魚さんから函館港イルミナシオン映画祭に呼ばれ、映画祭の番組を担当したことが事の始まりだった。映画祭に携わってみて、映画製作者の苦悩と葛藤を知ることになる。端的にいえば、作品は作ったが、それが劇場で公開されない限り映画とはならない、といった悩みを抱えながら映画祭に出品してきたからだ。当時は、配信などがまだまだ整備されておらず、映画は映画館で見るものと考えられていた時代。
その時、映画製作者たちの劇場公開への狂わしいまでの渇望感を身近な皮膚感覚として体感してしまったことが、会社を作ったひとつの動機のように思う。
それまで、撮影が終わり、仕上げの編集作業を行い、完成、すなわち映画が出来上がると思い込んでいた私にとっては、戸惑いもし、且つ又新鮮な驚きだった。
であるならば、映画はいつ始まるのだろうかと、大きな疑問も湧いてきた。同時に、作品を引き受け、それを観客に届け、作品を映画にしてゆく仕事の必要性も朧気ながら見えてきた。
では、映画館を失った街で映画を始める事とは、どのようなことなのだろうかと?
ここに踏み込む危うさを感じながらも、まずは片嶋一貴監督「天上の花」を作品から映画にしていただいたこの柏崎の地で、<映画が始まるとき>を分かち合いたいという思いが頭にもたげてきた。
となれば、思ったら走りながら考えよ、だ。
盟友といったら先輩で恐縮だが、寺脇研氏に相談して、映画祭の開催に向けて走り出した。寺脇さんからは、実績を作るまでは安易に地元の皆さんの助成に頼らないという、元文部省官僚とは思われぬ言葉を投げかけられ、プレ開催を含めて、3回目の開催に辿り着いた。
<映画が始まるとき>とは、皆さんに会場に足をお運びいただき、皆さん一人一人に支えられながら、皆さんの中で映画が動き出してゆくときのことなのだろうと思う。
今年も皆さんと共に<映画が始まるとき>を味わいたいと思っています。
よろしくお願いします。

初めて柏崎の街へ入ったのは、2021年秋。『天上の花』を撮影するためだった。映画会社が商業ベースで生産するものと違い自分たちで集めた資金で自主製作するため低予算である上、コロナ禍の最中でもあり、果たして無事に撮り終えることができるか危ぶんでいたのだが、それは杞憂に終わる。
予定の期間に予算内で無事済んだのは、ひとえに柏崎の皆さんの温かい応援があったお蔭だ。屋内撮影では、建物の選定、使用に御助力いただいただけでなく、ボランティアで俳優やスタッフの仕事を補助してくださる方々に恵まれた。野外撮影場面でも様々な協力をいただき、思い通りの出来に仕上がった次第である。
1年後に完成したとき、まず何より先に柏崎市民の皆さんに観て貰いたい! というのが、主演の東出昌大、入山法子はじめ全キャスト、スタッフの一致した思いだったのは言うまでもない。2022年11月の柏崎市文化会館アルフォーレでの完成披露試写会には、多くのメンバーが「懐かしの柏崎」へ東京から駆けつけた。
そして、柏崎市民はわたしたちの思いに応えてくれた。収容定員721名(一階席、当時2階席は閉鎖中)の大ホールを満員に埋め尽くす観客の前で挨拶したときの感激を忘れられない。撮影への協力といい、必ずしも娯楽性の高くない『天上の花』という映画を老若男女の別なく観に駆けつけ、上映後大きな拍手を送ってくれた皆さんの文化的積極性に、感動してしまった。
わたしと共にプロデューサーを務めた柏崎生まれ、育ちの小林三四郎の気持も同じだった。彼が、ここで毎年映画祭をやろう! と提案したとき、わたしが一も二もなく賛成したのは、柏崎の街が秘める高い文化水準と、人々の文化的欲求に微力ながら応えたいと願った故なのである。
第2回映画祭は、一昨年のプレ開催から数えると3回目。「三度目の正直」にふさわしい成果が求められて当然だ。そのつもりで臨んでいる。初日の『シサム』は、映画評論家としてのわたしの2024年度日本映画ベストワン作品だ。また、最終日の『雪子a.k.a』は、長らく文部科学省に勤め教育行政に携わってきた者としてのわたしが、現在の学校現場や子どもたちの姿について皆さんに問いかけてみたい。
二日目は、同じ事件を扱った2本、『桐島です』と『逃走』を連続で観ていただき、観客の皆さんと語り合うのが楽しみだ。
このように、映画を一緒に観て柏崎の方々と共に考え議論する場が、この映画祭だと思っている。













1952 年福岡市生まれ。元文部官僚。京都芸術大学客員教授。映画評論家。映画プロデューサー。高校時代から映画評論を執筆し、75年から映画評論家として活動。一方、同年文部省(当時)に入省し、官僚時代は「ゆとり教育」の旗ふり 役として「ミスター文部省」と呼ばれた。退官後も民間の立場から教育や社会に関する発言や著作を続けている。著書多数。映画プロデューサーとしては、『戦争と一人の女』(13/井上淳一)を皮切りに『バット・オンリー・ラヴ』(16/佐野和宏)、『子どもたちをよろしく』(20/隅田靖)、『なん・なんだ』(22/山嵜晋平)、『二人静か』(23/坂本礼)を製作している。

1957年、栃木県生まれ。若松孝二監督作品『我に撃つ用意あり』(1990)で若松プロに参加。『クレィジー・コップ 捜査はせん!』(1995)で監督デビュー。翌年よりプロデューサーとしても仕事のフィールドを広げ、数多くの個性的な作品に携わり、エッジの効いた映画づくりを続けている。主な監督作品に『小森生活向上クラブ』(2008)、『アジアの純真』(2011)、『いぬむこいり』(2017)、『天上の花』(2022)、他のプロデュース作品に『戦争と一人の女』(2012)、『子どもたちをよろしく』(2020)、『GOLDFISH』(2023)、『福田村事件』(2023)などがある。

1983年生、静岡県出身。大学在学中より、ビッグコミックスピリッツ編集部(小学館)で働き始め、卒業後も同編集部にて「ホムンクス』「アイアムアヒーロー』「7人のシェイクスピア」など、数々の有名作品に携わる。漫画の現場で働く中で「画家にも法律のプロが必要」と感じ、自らがなろうと決意。仕事を続けながら2012年に夜間コースのあった大宮法科大学院大学に入学。2013年の大学統合を期に、桐蔭法科大学院へ移籍。2017年同大学院修了。2018年にクリエイター専門の法務コンサル会社(合同会社プロテカ)を設立。今回、アイヌに興味を持ったことから初めて映画製作を行った。

沖縄県出身。GODOM沖縄 ディレクター。元沖縄テレビ キャスター(1999年入社)。医療・福祉・基地問題などをテーマにドキュメンタリーを制作。沖縄で広がるPFAS汚染を追い続けている。これまでに3本のテレビドキュメンタリーを制作。最新作『続・水どぅ宝』(2024年2月放送)ではアメリカの現地取材を敢行し、汚染の先に待ち受ける現実を提示した。『どこへ行く、島の救急ヘリ』(2011年)、『まちかんてぃ』(2015年)、『菜の花の沖縄日記』(2018年)、『水どぅ宝』(2022年)で民間放送連盟賞テレビ報道部門優秀賞、『菜の花の沖縄日記』で第38回「地方の時代」映像祭グランプリを受賞。2020年、映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』で初監督を務める。「放送ウーマン賞2019」を受賞。PFAS汚染を追った『水どぅ宝』は、民放連賞・「地方の時代」映像祭・ギャラクシー賞の優秀賞など受賞多数。2024年2月制作の『続・水どぅ宝』は放送文化基金賞 奨励賞。

1939年生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中に自主制作した『鎖陰』で一躍脚光を浴びる。大学中退後、若松孝二の独立プロダクションに加わり、性と革命を主題にした前衛的なピンク映画の脚本を量産する。監督としても1966年に『堕胎』で商業デビュー。1971年にカンヌ映画祭の帰路、故若松孝二監督とパレスチナへ渡り、パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり共闘しつつ、パレスチナゲリラの日常を描いた『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』を撮影・製作。1974年重信房子率いる日本赤軍に合流、国際指名手配される。2000年3月刑期満了、身柄を日本へ強制送還。2007年、赤軍メンバーの岡本公三をモデルに描いた『幽閉者 テロリスト』で日本での創作活動を再開。そして2015年、監督復帰2作目がカフカの短編小説を基にした『断食芸人』で、光州美術館の柿落としに公開され、日本全国で上映された。また、第45回ロッテルダム国際映画祭のディープフォーカス部門に正式出品され、大きな反響を呼んだ。そして、今年の夏、安倍元首相が銃撃される事件を題材とした『REVOLUTION+1』を発表。家族の愛、宗教と政治の癒着など、多くの課題が一直線に展開されて行く問題作となった。2024年1月、桐島聡の存在が報じられてまもなく脚本の執筆に取り掛かり、最新作『逃走』を完成させた。

1991年8月長崎出身。大分大学卒業後、映画美学校の脚本コースで高橋泉に師事。映像制作会社に入社後、バラエティ番組のADから連ドラ・映画の助監督として活躍する。会社を休職して撮影した『スーパーミキンコリニスタ』がPFFアワード2019で日活賞とホリプロ賞のダブル受賞。

1958年、新潟県柏崎市生まれ。1980年に竹内銃一郎が主宰する劇団「秘宝零番館」に入団。中心俳優として活躍する。数多くのプロデュース演劇、映画に出演。2006年に映画製作・配給の太秦株式会社の設立に参加し代表となる。以後、精力的に国内外劇映画、ドキュメンタリー作品を製作、配給している。近年の公開作品として『軍中楽園』(台湾)、『金子文子と朴烈』(韓国)、『子どもたちをよろしく』、『わたしは分断を許さない』、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』、『zk/頭脳警察50未来への鼓動』『東京裁判4Kデジタルリマスター版』、『アイヌモシリ』、『狼を探して』(韓国)、『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』(米)、『サンマデモクラシー』、『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』(ドイツ)、『REVOLUTION+1』、『時代革命』(香港)など、社会的な題材をもとにした作品を多数世に出している。

1991年テレビ朝日入社。政治部・経済部記者。「ニュースステーション」、「報道ステーション」ディレクター。政治、選挙、憲法、エネルギー政策などを中心に報道。2012年にチーフプロデューサー。経済部長を経て現在、ビジネスプロデュース局ビジネス開発担当部長。「独ワイマール憲法の教訓」でギャラクシー賞テレビ部門大賞。「黒川の女たち」のベースとなった「史実を刻む」(2019)がUS国際フィルム・ビデオ祭で銀賞。ドキュメンタリー番組「ハマのドン」(2021、22)でテレメンタリー年度最優秀賞、放送人グランプリ優秀賞、World Media Festival銀賞など。映画『ハマのドン』がキネマ旬報文化映画ベスト・テン第3位。著書に「ハマのドン」(集英社新書)、「刻印」(KADOKAWA)。
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